第38回 問題2
人間の尊厳と自立
Aさん(62歳,男性,要介護2)は,2年前に筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)と診断された。妻と自宅で過ごしたいと希望し,訪問介護(ホームヘルプサービス)と訪問看護を利用している。最近,症状が進行し,サービス担当者会議で,Aさんは,「人工呼吸器はつけないで,最期まで自宅で生活したい」と言った。
会議のあと,妻は訪問介護員(ホームヘルパー)に,「夫にはなかなか言えないのですが,一日でも長く一緒にいたいので,私は人工呼吸器をつけてほしいと思っています」と気持ちを伝えた。
次のうち,Aさんの妻に対する訪問介護員(ホームヘルパー)の提案として,最も適切なものを1つ選びなさい。
- 1「会議で話されていたAさんの意思が大切なので,尊重しませんか」
- 2「私にはわからないので,医師に決めてもらってはどうですか」
- 3「Aさんに人工呼吸器をつけてもらったほうがいいですよね」
- 4「Aさんとお互いの気持ちを話し合う時間をつくりませんか」
- 5「病院や施設の情報がほしいと介護支援専門員に伝えてはどうですか」
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✓ これが正解4「Aさんとお互いの気持ちを話し合う時間をつくりませんか」
解説
本人と妻が互いの気持ちを話し合う時間をつくる提案が適切です。
事例の決め手は、Aさんが会議で人工呼吸器はつけずに最期まで自宅で暮らしたいと話した一方、妻は夫には言えないまま、一日でも長く一緒にいたいので人工呼吸器をつけてほしいと訪問介護員に打ち明けた点です。本人と家族の思いが食い違い、しかも互いに本音を伝え合えていない状態です。
意思決定支援では、本人の意思を中心に置きながら、家族の思いも受け止め、関係する人どうしが話し合いを重ねることが大切です。筋萎縮性側索硬化症(ALS、全身の筋力が少しずつ低下していく病気)で人工呼吸器をつけるかどうかは生き方に関わる選択で、気持ちが揺れ動くこともあります。訪問介護員が答えを決めるのではなく、Aさんとお互いの気持ちを話し合う時間をつくるよう提案することが、二人の納得につながります。
夫の意思に従うよう妻に求める、医師に決めてもらう、妻の意見に同調する、病院や施設の情報を求めるといった提案は、どれも夫婦の対話を飛ばしてしまいます。本人と家族の意向が分かれたときは、介護職がどちらかに決めるのではなく、話し合いの場をつくる役に回る、と覚えておくと判断しやすくなります。
ほかの選択肢はなぜ違うのか
- 1「会議で話されていたAさんの意思が大切なので,尊重しませんか」:本人の意思を大切にする考え方そのものは正しいのですが、妻がようやく打ち明けた気持ちを受け止めずに、夫の意思に従うよう求める形になっています。妻の思いが置き去りになり、夫婦の対話も生まれません。
- 2「私にはわからないので,医師に決めてもらってはどうですか」:訪問介護員が自分には分からないと判断を医師に預けると、妻の気持ちを聞いた意味が失われます。治療の選択は本人の意思が中心であり、医師が一方的に決めるものとして勧めるのは適切ではありません。
- 3「Aさんに人工呼吸器をつけてもらったほうがいいですよね」:妻の希望に訪問介護員が同調すると、Aさん本人が会議ではっきり示した意思を軽んじることになります。支援者が一方の側に立って結論へ誘導するのは、意思決定支援の立場から外れます。
- 5「病院や施設の情報がほしいと介護支援専門員に伝えてはどうですか」:病院や施設の情報を集めることは、自宅で最期まで過ごしたいというAさんの希望とずれています。今の課題は夫婦の気持ちのすれ違いであり、介護支援専門員への情報提供の依頼では解決しません。
出典:第38回 介護福祉士国家試験(公益財団法人 社会福祉振興・試験センター)問題2。問題文と選択肢は原文のままです。解説は当サイト独自のもので、同センターとは関係ありません。
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