第28回 問題26
精神保健福祉の原理
次の事例を読んで,問題25から問題27までについて答えなさい。
〔事 例〕
相談支援事業所に勤務するA精神保健福祉士は,「障害者総合支援法」に基づき市に設置されている協議会の委員を務めている。A精神保健福祉士は,協議会が主催する精神保健福祉ボランティア講座の講師を担った。精神障害に関する講義の後に行ったグループワークで,ある参加者から,知人が「精神障害者は危険なので病院に閉じ込めておくべきだ」と強く語っていたこと,その考えは誤りであると否定したが,うまく納得してもらえなかったエピソードが紹介された。(問題25)
A精神保健福祉士は,このエピソードの背景にある課題の解決に向けた取組が必要と考え,協議会で問題提起した。そこで,A精神保健福祉士は,この課題解決の取組を検討する議論に精神障害の当事者も加わり意見を反映させることが重要であると考え,当事者を委員に加えることを提案し,了承された。(問題26)
次の協議会で,提起した課題が議論された。新たに参加した当事者委員から「病気になる前はストレスフルな状況が続いても無理をしていたが,自分が精神疾患になるとは思っていなかった」と語られた。また,病気になって周囲から差別を受けたり,精神疾患を理由に恋人との結婚を周囲から反対されたりしたこと,そのうち,障害者の仲間以外との関わりがほとんど無くなったことなど,生活での苦労の経験が語られた。一方で,A精神保健福祉士がそれらの経験の中で得たことを質問すると,近所に病気や苦労を理解してくれる人がいて救われたことや,新たな生き方に価値を見いだせるようになったことが当事者委員から語られた。
A精神保健福祉士は,当事者委員が語った苦労の背景にある課題の改善に向けて,精神障害者の人生の価値を共有できるような市民向けの講座を行うことを提案した。協議会では他にも活発な意見が出され,講座の計画が作成された。(問題27)
(注) 「障害者総合支援法」とは,「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」のことである。
次のうち,A精神保健福祉士の提案の根拠となるものとして,適切なものを1つ選びなさい。
- 1Nothing about us without us(私たち抜きに私たちのことを決めるな)
- 2「この子らを世の光に」
- 3当事者研究
- 4「ダメ。ゼッタイ。」普及運動
- 5「ごく当たり前の生活」
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✓ これが正解1Nothing about us without us(私たち抜きに私たちのことを決めるな)
解説
当事者を委員に加える提案の根拠は、私たち抜きに決めるなの理念です。
事例を共有する3問のうち2問目で、問題26の印がある段落の場面を扱います。決め手は、A精神保健福祉士が、課題の解決策を検討する議論に精神障害の当事者も加わって意見を反映させることが重要だと考え、当事者を協議会の委員に加えることを提案した点です。
Nothing about us without us(私たち抜きに私たちのことを決めるな)は、障害のある人に関わる政策や仕組みを決めるときには、当事者自身が決定の過程に参加すべきだという考え方を示す言葉です。障害者の権利に関する条約を作る過程で、世界の障害者団体が掲げた標語として広く知られています。精神障害者への偏見という課題を解決する取組みを、当事者抜きで専門職や市民だけで決めるのではなく、当事者を委員として迎えて一緒に考えるという提案は、この理念をそのまま形にしたものです。
ほかの肢は、障害児福祉の理念を示した言葉、当事者が自分の苦労を研究する取組み、薬物乱用を防ぐ運動、地域での暮らしを支える実践の理念で、議論への当事者の参加を求める根拠とは異なります。
したがって適切なのは、Nothing about us without us です。当事者が決める場に加わることが問われていたら、この言葉を思い浮かべるとよいでしょう。
ほかの選択肢はなぜ違うのか
- 2「この子らを世の光に」:この子らを世の光には、近江学園やびわこ学園を創った糸賀一雄の言葉で、障害のある子ども自身が世の光として輝く存在だという理念を示しています。決定の場への当事者の参加を求める言葉ではありません。
- 3当事者研究:当事者研究は、北海道浦河町のべてるの家で始まった、当事者が自分の苦労を仲間と一緒に研究する取組みです。協議会の委員に当事者を加える提案の根拠を示す言葉ではありません。
- 4「ダメ。ゼッタイ。」普及運動:ダメ。ゼッタイ。普及運動は、薬物乱用を防ぐための啓発運動です。精神障害者への偏見の課題を議論する場に、当事者を参加させる根拠とは関係がありません。
- 5「ごく当たり前の生活」:ごく当たり前の生活は、やどかりの里の実践を通じて谷中輝雄が示した、精神障害者が地域で普通の暮らしを送ることを支えるという理念です。決定の場への参加を直接求める言葉ではありません。
出典:第28回 精神保健福祉士国家試験(公益財団法人 社会福祉振興・試験センター)問題26。問題文と選択肢は原文のままです。解説は当サイト独自のもので、同センターとは関係ありません。
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